が弁慶に橋で拾われてから、もう一ヶ月近くが経とうとしている。
熱が下がってお互いに自分のことを紹介したときには大声を上げて驚いた。
(大声というより奇声に近かったかもしれないが)
ここが鎌倉時代前、いわゆる平安時代だということ。
目の前で微笑んでいる優しそうな美少年がかの歴史でも有名な”武蔵坊弁慶”だということ。
歴史に語り継がれてきた弁慶のイメージといえば大男。
でも、目の前にいる彼はそのイメージとは正反対だった。
初めはとても不安で、うろたえたものの住めば都とはよく言ったものである。
「、ちょっといいかしら」
にそう呼びかけたのは居候先の京邸に住んでいる梶原朔である。
歳も近かったためかすぐに打ち解けることができた。(あの日、の着替えをしたもの彼女である)
「なに?どうしたの?」
呼びかけたれたので与えられた部屋からひょいと顔を覗かせれば朔は手に沢山の着物を持っていた。
驚いたものの、慌てて部屋へ迎え入れると彼女は嬉しそうに床にそれらを置いた。
「貴女はあまり気にしてないかもしれないけど、女の子なのだから少しは興味があると思って」
そう言って朔は極上の笑みを浮かべ床に置いた着物を一つ一つに見せた。
は戸惑った。
元の世界でもお洒落にまったくと言っていいほど興味、関心はなかったしするつもりもなかった。
「でも、私そういうの全然駄目なんだけど・・・」
「ふふ、だろうと思ったわ」
朔はそう言って微笑んだ。
本当に朔には適わない、とは顔を赤くした。
たったの一ヶ月だと言うのに彼女はのことをほとんど分かっているようだった。
「喜ばせてあげたい方はいないの?」
さほど長くない髪を櫛で梳きながら朔はに問いかけた。
その問いに困ったような表情をする。
だって、こっちに来てたった一ヶ月、知り合いもそんなにいないのだ。
この屋敷の主でもある景時なら普通に褒めてくれるだろう。
弁慶の戦友と名乗る九朗は女の扱いというものがまったく慣れていないのだ。
素直に褒めるとは思いにくい。
「兄さん・・・」
「え?」
「私ね、元々いた所に兄が、いるの」
心配しているだろう。
一ヶ月も帰らぬ妹の身を案じて食事も間々なって・・・。
ああ、とは急に兄のことが心配になった。
「兄さんに見せたいな。
きっと、心配してると思う。だから元気な姿で」
安心させてあげれるように。
そう彼女に告げると笑って「そうね」と言ってくれた。
そこへ静かな足音を響かせ、望美が入って来た。
「うわ!どうしたのこの沢山の着物!」
「に着せようと思って持ってきたの。
望美はどれがに似合うと思う?」
「うわぁ、楽しそう!」
この会話を聞くとはやり望美も女の子だということを自覚させられる。
そう言うと変かもしれないが。
そして二人であれよこれよと選んでいる。
「お兄さんに見せたいって言ったの?」
「うん」
「お兄さん、いくつ?」
「28」
「あら、だいぶ離れているのね」
「でも、優しいよ」と言えば朔も望美も微笑んで「のお兄さんだもんね」とに返事をした。
そんな望美は次の瞬間少しつまらなそうに呟いた。
「でも何か拍子抜けしちゃった。弁慶さんに見せたいのかと思ってたのに」
「は?」
「え、だって弁慶さんのこと好きでしょ?」
「え?ええ?えええええええええええええええええ!?」
指をさされては一気に顔を真っ赤に染めて悲鳴を上げた。
違う!と手を必死に振って否定を示すが望美のニヤニヤした笑顔は止まらない。
その横で朔が「あら」と呟いた。
「はやっぱり、弁慶殿のことが好きだったのね?」
「ちち違う!それにやっぱりって何!?」
「おもいっきり否定するところが怪しいよね」
「ふふ、そうね。でも慌ててるも可愛いわよ」
「そういう望美は!?九朗と進展はあったの!?」
「な、なんでそこに九朗さんが出てくるかなっ!!」
そんな二人と一緒にいるのがとてつもなく楽しかった。
こんな幸せな日々が、なくなるなんて考えもしなかったんだ。
まだ、このときは。
世界はやさしくまわっている
もとい、世界はやさしくまわっていた。