ああ、焼けていく。
焼け落ちる。









「そんな」


あんなに綺麗で活気のある都だったのに。
今となっては燃えて全てが灰と変わっていく。
そんな光景が京邸の前からでも分かる。

はただ心配になった。






『じゃあ、少し出てくるね』

『大丈夫ですよ。心配しないでください』

『安心しなよ』

『では、行ってくる』







そう言って出て行った四人が。
笑顔で送り出してしまった自分を憎むしかなかった。
あの時、止めていれば。
望美が帰ってくるまで待とう、と。













「朔、皆は?」
「まだ帰らないわ・・・」

部屋に入ってきたを見上げ心配そうに朔が言った。


はそんな朔を見ていられなくて部屋に戻って長い袋を手に取った。
もちろん中身は刀だ。
自分の身を守るものがほしかった。
こんな荒んだ時代だし、同い年の望美でさえ戦っているのだ。
リズヴァーンに習った剣術はまだまだ未熟ではあるがやっと形になってきた、と亡き彼は褒めてくれた。








「先生・・・っ力を貸して」



刀をぎゅっと握れば、背中越しにリズヴァーンが「大丈夫だ」と言ってくれる気がした。
振り向いても結局は誰もいないのだが。
刀を持って立ち上がり、部屋から出ると朔が待っていたかのように立っていた。
そしての手中にあるものを見て目を見開いた。











「朔・・・」
、どこに行く気なの!?
 今、京は平家に襲撃されているのよ!?」
「ごめん、朔。
 でも、皆困ってると思う。望美がいない今、少しでも力を貸さないと」



私の力で役に立てるかは分からないけど、と付け足せば朔は驚いた顔が悲しみに変わった。
の肩を強引に掴むと「やめて!」と叫ぶように大きな声を出した。



「黒龍を失って貴女まで失ったら・・・私っ・・・!」
「大丈夫だよ、朔。きっとそのうち望美達が来てくれる。
 それまで時間を稼ぐだけだよ。
 無茶はしない。約束する」



弱弱しい声で、朔が「本当?」と聞いた。
それに頷けば朔はいつものように落ち着きを取り戻して祈るように手を組んだ。

「約束よ。絶対に生きて戻ってくるって」
「うん!ありがとう朔!!」




余計な時間を喰ってしまったものの朔の心配にただ心が温かくなるのを感じた。
慌てて京邸を飛び出すと目に映るのは紅く染まった京。
すっかり燃え盛ってしまっている町を見ては思わず顔を顰めた。
こんな光景を見てから改めて平家が攻め入ってきているのを実感した。
朔から火がたくさんで危ないから、と借りた衣を頭から被って四人を捜す事にした。

















(火が、回るのが早い・・・)
煙を吸わないように口を塞いで町を走り回った。
結局未だに四人には会えない。
無事でどこかにいるのか。
それとも既に――、と嫌な考えが頭に過ぎるが信じたくなくてその考えを追い払うように頭を振った。


ちりん、
と耳に届いた鈴の音には顔を上げた。
どこから聞こえるのかは分からない。
ただそれに不思議とついて行けば誰かに会えると思った。


曲がり角を曲がればそこには会いたい内の二人がいた。
だがそこにいたのはの見たい元気な姿ではなく地面に倒れ伏せている姿だった。





「弁慶っ!景時さんっ!!」






慌てて二人に駆け寄ると二人の息は苦しながらもあるようで安心した。
しっかり、と身体を揺すると「う」と小さな声を上げて弁慶が身体を起こした。
そして目の前にいるを見て目を見開いた。
にとっては何人目の驚いた顔だろうか。
視線を反らせば痛々しい沢山の傷が目に入って今度はが目を見開く。




、さんっ・・・!?どうして、ここにっ・・・」
「皆が心配になって・・・。
 望美が帰ってくるまで少しでも時間稼ぎをって・・・」
「駄目です。
 さん、貴女はここにいてはいけない。早く京邸に」
「でもっ!こんなに怪我してるのに!!景時さんだって!!」
「いいから早く!!」




弁慶がに半場怒鳴ったのはこれが初めてだった。
も驚きと戸惑いを隠せないらしい。

たじたじになりながらもでも、と言葉を続けた。




その時、ふっと自分に重なる影を見た。
驚いて振り向けばそこには長髪の男が立っていた。









「なんですか貴女は」

男は目を細めて汚いものを見るかの様な目つきでを見下した。
こんなに近くに来るまで気付かなったなんて!



「町の娘・・・では、ないようですね。まぁ、どちらでもいいことです」
「惟盛殿!あなたはこんな少女まで斬るというのですか!」



刀に手をかけた惟盛に声を荒げて止めに入ったのは同じ蝶紋の入った貴族の服を着ている男だった。
目の前の冷徹な男とは違い、彼はどこか優しく戦いの似合わない光を秘めていた。
そんな彼の呼びかけに惟盛はウンザリとした表情で彼へと視線を向けた。



「経正殿、そんな甘い事を言っていては源氏を滅ぼす事はできませんよ」
「だからと言って・・・!それに仮に町の娘だったらどうするのですか!」
「それないでしょう。こんなに胆の据わっている町娘がそうそういるものではない」



ちき、と目の前に突き出された刀の刃。
はそれをき、と睨み返せる自分に内心驚いていた。
昔の、この時代に、世界に来たときの自分なら足が竦んで動けなくなっていただろう。


「もう、誰も殺さないで」


それは何を示したものなのか。
自身にも分からなかった。
そんなの言葉に経正は少し驚いた表情を見せた。
だが、そんな彼とは正反対に惟盛の感には触ったらしい。
おもしろくないといった表情を浮かべている。


「それはできませんねぇ」
さん!早く逃げてください!!」
「させませんよ」

弁慶の声を嘲笑うかのようにふふ、と惟盛は笑った。
小娘の一人くらい殺すのは容易いと思っているのだろう。
そんな惟盛の隙を付いて、は横に転がしてあった刀を足で蹴って立たせた。
立ち上げると同時に刀を手にすると隠してあった布がはらりと取れた。
そして鞘を抜くとすらりと惟盛に向けた。




「殺させない・・・!」




絶対に。
そして、この世界から消え行くのだとしても―――・・・






滅亡カウントダウン