『ねぇ、起きて。
君は生きているんだよ』
生きている?
『どうして人間なんか庇ったんだい?
どうでもいいじゃないか。
人間が生きようが死すまいが』
関係、なくなんかないよ――・・・。
だって大切な人だったもの。
『・・・驚いた。
今度の神子様はえらく肝が座ってるんだね』
神子?
神子は望美だよ。
『違うよ、春日望美は龍神、白龍の神子さ。
は麒麟の神子だよ。
今や四神は麒麟に見方している。
君の、見方』
どうして、どうしてそんな事を知ってるの?
あなたは誰・・・?
『僕?僕は君の味方。
そうだねぇ、徹と名乗っておこうかな』
さぁ、行こう。
僕らが笑ってられる世界へ。
「・・・!」
誰、私の名を呼ぶのは。
「!」
耳元で叫ぶように声を荒げられ、ははっと意識を取り戻した。
吃驚して辺りを見渡すとそこにはいつもの風景が広がっていた。
「朔・・・」
「大丈夫?ぼーっとしてたものだから」
心配したのよ、と朔は困ったように呟いた。
(・・・?あれ、私さっきまで何してたっけ?)
は何か大切なものを忘れてしまったような気がしてならなかった。
いいか、と諦めがついたところで朔に再び声をかける。
「望美は?」
「外で花断ちの練習をしているわ」
九朗殿も無茶な問題を出すわね、と朔は困ったようにため息をついた。
はそうだね、と返事を返すものの内心そうではないのではないかと考えていた。
異世界から来た神子、の力でなくきっと彼女は春日望美と言う立場でやり遂げるのではないだろうか、と。
そうもいってやれないし。
どうすれば朔を安心させることができるだろう。
はふとこちらに持ってきた鞄の中身を思い返した。
慌てて鞄の中を漁ると案の定存在した。
「じゃん!タロットカードっていう占いの道具なの」
「たろっと・・・?」
「うん。これで望美が成功するか見るの」
当たるとは限らないけど、とは手の中のカードをきって見せた。
「恋人のカードが出たね。えっと、意味は試練の克服も含まれるから・・・。
うん、きっと望美はやりとげるんじゃないかな?」
「まぁ、本当?」
嬉しそうに微笑んだ朔を見て、は安心した。
これなら大丈夫そうだ、と。
そんなとき後ろから声がかかって二人は振り向いた。
「タロット、ですか」
そこにいたのは譲だった。
彼も京に来て一ヶ月。
久しぶりに現代のものをみた、といった感じだろうか。
「譲のも占ってあげようか?」
「いえ、また機会があったらお願いします。
それよりさっき先輩のことについて占ってたんですね」
「ああ、気になる?大丈夫だよ。
恋人の正位置がでたから、成功するって」
「それ、先輩に教えてあげたほうがいいと思いますよ」
きっと喜ぶんじゃないだろうか、と譲は顔を綻ばせた。
そんな彼の姿を見て、二人は本当に望美の事が好きなんだな、と実感した。
恋するお年頃、というものはこういうものなのだろうか。
少し前に朔に初恋はいつ?と聞かれたときは兄が初恋だった、と告げた。
それに少し驚いたような表情を見せたものの、よっぽど素敵なお兄さんなのね、と彼女は微笑んだ。
ただ、気になっている人といえばいるんだけど。
「おや、楽しそうですね」
「弁慶さん」
譲の言葉と聞こえてきた声にはびくりと肩を揺らした。
噂をすれば影、ということわざがあるがこんなにタイミング良く現れなくても。
ちらり、と盗み見れば金とも茶ともとれる綺麗な髪が見えた。
まぁ、一番初めに見えるのは黒、なのだが。
「僕も混じりたいところだけど、そういうわけにはいきませんからね」
「・・・出かけるの?」
「はい。五条大橋に行こうかな、と」
じゃあ行ってきますね、と出て行く弁慶の背を見ていた二人に譲がお茶を出してきた。
それにお礼を言って口へと運ぶ。
温かいお茶が流れ込んで安心感を得る。
そういえばいつだか兄が言っていた。
「心が乱れているときはお茶で心を落ち着かせるんだ」と。
彼の場合、紅茶を出してそう語るのだ。
そしてタロットを捲る。
そういえば、こちらに来る前日に悪いカードが出た気がしたがまぁ終わってしまった事だ。
「は本当に弁慶殿を慕っているのね」
「ぶふっ!!」
朔の突然の言葉には飲んでいたお茶をいきよいよく吹き出した。
「そんなことない!」と咽ながらも否定するが返ってくる言葉は「隠さなくていいのよ」。
慌てて否定し続けるのを嘲笑うかのようにがらりと音を立て、扉が開いた。
「あー、疲れた!!」
「お疲れさまです、先輩」
「あ、譲君ありがと!」
「望美からも何とか言ってよ!」
はお茶を受け取る望美に意見してもらおうと彼女に呼びかける。
だが彼女は話を聞くといきなりにやりと嫌な笑みを浮かべた。
「の、望美さん・・・?」
「いい加減認めなよ〜。
誰が見てもバレバレだよ」
「・・・っ!!」
にやにやとまだ言葉を続ける望美を無視しながらもは後悔していた。
「望美に同意見を求めた私がバカだった・・・」
よたり、と縁側に足を向けると心地のよい風が吹いて嫌な気分が忘れそうな気がした。
そこに座るものの後ろからは望美からの冷やかしの言葉が聞こえてウンザリした。
小さく息を吸い込むと同時に吹く風に身を任せ、瞳を閉じた。
さぁ、始めようか。
僕らが笑ってられる世界のために。
風に乗って、誰かの声が聞こえた気がした。
底抜けの世界