「聞いていますか!殿!!」
「え、はい」
うんと高い声で怒られは困ったように笑った。
「それであの人ったらね、カッコつけてそう言ったのですよ。
まるで自分が素敵だと言っているみたいに!」
「殿の方が素敵だわ」
きゃあ、と黄色い悲鳴を上げられはひくりと顔を歪ませた。
なぜこんなことになっているのか。
自分でも理解しがたかった。
「どうしたんですか、アレは」
京邸に足を踏み入れた弁慶は驚いたように望美に声をかけた。
望美は手入れをしていた刀をその場に置くとつまらなさそうな表情をする。
「が町人に絡まれてた女の人を助けたんだって」
まるで恋人を取られた彼女のように望美はいじけている。
その隣で苦笑気味の朔がその言葉に助けを出した。
「その時、ったらどんな姿が動きやすいか研究してたんです。
丁度、兄上の・・・男性用の姿で出かけていたのよ」
朔の言葉によって、なるほどと弁慶は一瞬で理解した。
男の姿で出かけその先で女性を助けた。
助けられた女性はを男だと勘違いした。
「そこからああなった訳ですか」
「そうなんです!ああ、もうムカつく!!」
剣の稽古の相手をしてもらおうと思ったのに!と望美はイライラと頭を掻いた。
「だったら助けてあげればいいのでは?」
「できたらしてます!
私が恋人宣言するにしてもこないだの九朗さんの婚約者だって話、聞いてた白拍子の子もあの中にいるんです!!」
「あの中に私が出家してるのを知っている人も多いんです」
望美に続くようにして朔もため息をついた。
彼女もを何としても助けてあげたいのだろう。
だが、ばれるような嘘を付くのはどうも危険である。
どうしたものか、と頭を抱えているとそこにぐったりした表情でが帰ってきた。
「、大丈夫?」
「何とかね・・・。あ、でも何かいいこと聞いた」
「うん?」
「今ねー、熊野別当にそっくりな人が六波羅に来てるらしいよ」
どうも美少年だとかー、とは続ける。
それに驚いたのは望美だった。
まさかヒノエにこんなに早く会える機会に見舞われるなんて。
「よくそんな話聞けたね」
「うん。
”天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばし とどめむ”ってどこかで読んだ適当な和歌を教えたら喜んで教えてくれた」
「さん・・・」
貴女って人は、と今度は弁慶が頭をかかるようにしてため息をついた。
そんな彼のため息が耳に届いては慌てて弁慶の傍によった。
「だ、駄目だった?それとも変な意味だった!?」
喜ばれたんだけどっと本当に慌てては弁慶に意味を聞く。
弁慶の内心は複雑だった。
カッコしだいでは男に見えなくもないのだし、あれだけ強い女性がいるなんてどう考えても一般常識内ならありえないと思うだろう。
ただ、その和歌については素なのか計算なのか。
策士なのか天然なのか。
そう言われればの容姿のことだ。
女性陣が喜ばないわけがない。
「自業自得、ですね」
「ええ!?朔、どういう意味なの?」
「え、えっととても言いにくいのだけど」
「空吹く風よ。乙女の帰り道を塞いでしまってくれ。
その姿がもうしばらく見ていたいのだ。という意味ですよ」
その言葉にが奇声を上げて驚くのは数分後の事。
「ちゃん、本当にそんな服でいいの?」
「うん、意外と動きやすいし」
景時の心配そうな声には頷いて見せた。
が選んだ服は景時が昔着ていたものでそれが気に入ったらしい。
朔や望美があれこれと進めてきたのは女女しすぎて動き辛そうなものばかり。
だからといって自分が着ていたセーラー服を着るのもなんだか怪しく見える。
郷に入っては郷に従えとはよく言ったものだと思う。
「でも、今日みたいなことになったら大変よ」
「え、うん。分かってるよ。
でもね意外と女性にちやほやされるもの悪くない気がして」
「え!!ちゃんってそっちの人!?」
「兄上!」
景時の一言で朔は怒ったように声を上げた。
はそんな二人を見て、苦笑した。
この二人を見ていると兄妹、というものを思い出す。
兄さんは、元気だろうか。
次の瞬間、ぐらりと視界が揺れて慌てて体制を立て直そうとするが床に膝がついてしまった。
「ちゃん!」
景時の声に大丈夫、と答えるがもやもやとした気持ち悪さは抜けきれない。
なぜだろうか。
吐き気とはまた違った気持ち悪さ。
まるで自分が自分でなくなるような、自分がここから消えてしまうような。
時に感じるこの気分が恐くてしょうがなかった。
暗い世界が呼んでいる