「切原君に魔法をかけてあげよう」
「・・・は?」
指先の魔法
何を言ってるんだ、コイツは。
今、目の前にいるのはクラスメイトの。
コイツも、俺も、英語が大の苦手で居残りさせられている。
教室に2人だけ。
外から聞こえてくる運動部の声と俺らのシャーペンを走らせる音が教室を満たしていた。
俺の目の前にあるプリントが半分くらい英文で埋まった時だった。
隣の席でリズムよく動いていた手が止まった。
そして俺に向かってニヤリと笑うと1言。
「切原君に魔法をかけてあげよう」
意味が、分からない。
そんな俺の顔を改めて見ると、クスクスと小さく笑った。
そして、握っていたシャーペンを机に置くと、俺の目の前で人差し指を突きつけて、また、ニヤリと笑う。
「私は魔法使い、なのですよ」
愉快そうに笑うコイツは何なんだ、一体。
「目を閉じて」
「は?」
「い・い・か・ら!!」
俺は言われるがまま、渋々と目を閉じた。
「何もない。
真っ白な空間を思い浮かべて、私の質問に答えてください」
優しい口調で言うと、コイツはクスクスと笑って口を開いた。
「切原君、部活は楽しいですか?」
「ま、厳しいけどな。それなりに」
「テニス部だよね」
「おう」
目を閉じているので、目の前のコイツはどんな顔をしているのか分からないが「ふむ」と考え込む声が聞こえた。
「切原君は英語が苦手だよね」
「見ての通りな」
苦笑して手探りでプリントを触る。
「半分はできでるじゃん」と俺をからかうように呟いた。
「英語とテニス。やっぱ好きなのはテニス?」
「当たり前」
「だよね」
なんだか馬鹿にされているようで目を開けた。
「やってらんね」
そう呟くとはため息をついて英語のプリントを差し出した。
半分しか埋まってなかった、俺の解答用紙。
それはこの短時間で全て埋まってしまっている。
「なっ!お前「切原君、本当に英語苦手なんだね」
「・・・お前だって」
「いやぁ、あんな英文みたら眠くなってね。
寝ちゃってるだけ」
本当はできるんだ、とは呟いた。
「さて、と帰りますか」は背伸びをしてカバンを机からひったくって肩にかける。
「おい、。なんでこれ、したんだ」
「え〜。だって可哀想じゃん。
一人で居残りって」
「プリントの事じゃねぇよ」
「・・・魔法のこと?」
「そう、それ」
「答えは簡単。私が初めから魔法に掛かってしまったから」
じゃあね、と高々と手を挙げてソイツは去っていく。
「・・・ワケわかんね」
廊下にはプリントを握ってたたずむ俺がポツンと残されただけだった。