「ねぇ、弁慶。私が死んだらどうする?」



僕が平家に寝返ることを知っているかのようにさんはいつもの笑顔で問いかけた。
返答に困っていると彼女は小さく笑った。




「変なの。いつ死んでもおかしくない戦場に立っているっていうのにそんな驚いた顔をするのね」





死なないと言う確信でもあるのかしら、と笑った彼女は何かを見通した瞳だった。
この人は僕の計画を、策を知り尽くして、こんな事を言っているのか。
それとも――・・・。






「それでも、貴方は死なないでしょうね。しぶとい人ですから」

そう言うと、さんはきょとんとしてすぐに微笑んだ。

「うん、そうね。しぶといもの。死んでたまるもんですかってね」

刀を抜いて、その場へ腰を上げるとその場で小さく振ってみせる。
この戦が終われば、やっと。
皆、そう思っているだろう。
だがそれこそが罠だ。僕は源氏を裏切る。
皆、仲間、そしてさんを捨てて――・・・。




「ならばさん。
 もし僕が死んだらどうしますか?」
「ん?んーと・・・」




この反応には驚いた。
こういう事を聞き返せば、驚くか、呆気に取られるか。
どちらか一つだと踏んでいたけど。
つくづく、計画をひっくり返す人だ。



「それは、ないと思うな」
「どうしてですか?貴方も先ほど言ったでしょう?
 いつ死んでもおかしくない戦場にいると」




そう、いつ死んでもおかしくはない。
それでも、彼女の問いをはぐらかしたのは護れる確信があったからだ。
それは僕が平家に付いたふりをし、何とかして清盛殿を倒すつもりだからだ。
そうすれば戦は終わる。
彼女が苦しむ場所も、もうないだろう。
そして、幸せな日々へ彼女は帰る。
そう、それでいい。


さん」
「はい?」
「もし、本当にもし、ですよ。
 もし、僕が貴女を・・・」
「裏切ったらどうしますか、かしら?」
「っ!?」


どうしてそれを。
と、言いたいところだが声がでない。
それは僕が彼女を自信の闘いに巻き込んでしまうのが怖いからなのか。
それとも彼女の妖笑に心を奪われてしまっているからなのか。
僕がまるで罠へとかかってしまったように立ち尽くしていると、さんは振り向いてまた、笑った。
その笑みは、先程のような何かを秘めた笑顔ではなかった。
いつもの彼女の笑みだ。子供らしさを残したようなあの。





そして手に持っていた刀を鞘に収めると僕へと近づいた。

「ごまかせるとでも思った?」

そしてその手はその間々、僕の頬へと近づいた。
「私は知っているの。貴女が何をするか」
「知っている、ですか――?」
「ええ、清盛と相討ち覚悟なのでしょう?」
本当に、彼女は知っていたのか。




「いつからそれを?」
「知っていた、私は。貴方が、そうすることを」




これが答えと彼女は泣きそうな顔をした。
その顔はずるい。
そんな顔をされては決心が揺らいでしまうではないか。
その涙を掬うように彼女の頬へと手を伸ばせば彼女は小さく肩を揺らした。
それでもかまわない。
頬に触れると彼女も落ち着いたように全てを僕にゆだねた様だった。


「弁慶は馬鹿ね。本当に大馬鹿。
 自分だけが犠牲になろうなんて虫がよるぎるわ」
「君は、僕を責めないんですね」
「望美ならそうしたかもしれないわね」

そう、彼女のように何かを言ってくれればと思う。
そうすれば、何の見返りもせず、先へ進めるのだから。


「でも、私は共に歩くの」

先程の、と彼女は続けた。


「先程の貴方の質問、”僕が死んだらどうしますか”に答えるわ。
 私は共に生きる。もし、それでも運命に抗えないとしても」


世界の終焉まで踊れ道化よ


「それに、死ぬときはいっしょ、でしょ?」
そう言って、彼女は。










お題提供 ジャベリン