私達の時代に帰れなくなって二週間。
私はまだ望美の言う現代にはなれていない。
電車、というものも初めて見たときは驚いた。
あれから何度か乗って出かけた事もあるが私は機械類や乗り物が苦手だ。
こないだだって反対方向に乗って帰れなくなって譲に迎えに来てもらった。




アイツはあんなに慣れているというのに、だ。
















譲に「少しは慣れておいた方がいいでしょう?」と言われて、は近くのスーパーに一人で買い物に来ていた。
正直言って、この時代の文字はにとっては少し苦手だったが何とか慣れてきたところだ。
それに譲の解説を聞いてきたので何を買うのかはしっかり覚えている。
それにしても将臣や望美に対してため息を吐かざるを得なかった。
彼らは自分に対して少し過保護すぎるのではないか、と。
まぁ、原因は自分にあるのだが。


は手中にあるメモを眺めながら買い物を済ませることにした。













買い物が済んだ瞬間、ふと空を見ればそこには暗闇が広がっていて、夜だということを知る。
店を出た瞬間、は目の前の光景に呆然とした。


「どうしたんだい?」

暗い、夜の中そこに立っていたのはヒノエだった。

「ヒノエこそ、どうしたの」

驚きながらもは声を絞り出すように聞いた。
指差した先には有川家にあった自転車があった。



「ついさっき望美から電話があってね。
 もう暗いし荷物もあるだろうからって迎えに行ってほしい、って。
 丁度自転車だし、近かったし」

それに姫君のお願いだし、断るわけにいかないだろう?とヒノエは小さくウィンクして見せた。
あまりのヒノエらしさにはただ、苦笑するしかなかった。








シャー、と音を立てて、少し肌寒い風を受けながら暗闇の中を走る。
自転車、というものは電気でなく自分の足の力で動かすものだということには驚きを隠せなかった。
この時代、全てが電気で動かせるものだと思っていたから尚更だ。

乗り物が苦手なでも曲がり角を曲がるときでさえ不思議と怖さは感じなかった。
それは目の前に彼がいるからなのか。
それとも、漕いでいるのが彼だからなのか。
こんな不安定な乗り物に二人で乗るのは気が引けたが、乗ってみると案外安定感もあって、楽しく感じた。







「私もすぐに乗れるようになるかなー?」
前から来る風に負けないように声を出すにヒノエは苦笑する。
には無理じゃないかい?
 昔にも船を乗るのに時間がかかっていただろう?」




ヒノエの返答にはぐっと文句を飲み込んだ。
ヒノエの言っていることは確かに正しかった。








本当に小さな頃から乗るものが苦手だったはヒノエの用意した小さな船に中々乗ろうとしなかった。
そこでヒノエがとった行動はを無理にでも船に乗せるといったものだった。
お互いに負けず嫌いだったものだから口論からどんどんグレードアップしていった。
これじゃあ拉致が明かないと思ったヒノエが敦盛に協力を持ちかけて二人で無理矢理船に乗せたのだ。








それでも今回の自転車に関しては以外にすんなり乗れたものだと思う。


「また、乗りたいな」
意外と楽しいし、と付け足すと「ふーん」と前方から返事が返ってくる。
「また乗せてやるっていったら乗るかい?」
ふ、と前から聞こえた言葉に顔を上げるがあいにくヒノエは前を向いている間々で表情が見えない。
それでも、笑っている、ということがには分かった。






ああ、ちくしょう。
好きだな、と実感させられて悔しかったりするんだけど――・・・。





無意識にふ、と顔が小さく綻んだ。






自転車を漕ぐあなたの背中から見た月は



「で、また乗るのかい?」
「もちろん!そのときはよろしくね!!」




お題提供 唇にスカーレット