イシュタール家、というのは王の記憶を守る墓守の一族。
私の家もその一家に使えていた。
もちろんとても小さな頃から同じような立場にいるリシドにはとてもお世話になっていた。
楽しい事もそれなりに多かったが苦しいこともあった。
両親は仕方のないことだと幼かった私に言い聞かせたに違いない。
だから私は両親が死んだ時だってなんとも思わなかったし、どんな酷い仕打ちを受けても仕方のないことだと自分に言い聞かせていた。
そんなとき、まだ10にも満たないマリクと出会った。
私はリシドと違って彼と会った事はなかったが出会いは最悪中の最悪だった。
10になれば彼は墓守の印を受け継ぐと言う。
それこそしょうがない、仕方がないことだ。
なのに彼はそれを嫌だと拒んでいたのをすれ違いざまに聞いてしまった。
同い年の私はどんな仕打ちにだって耐えてきたのに彼は、とでも思ったのだろうか。
気付けば呟いていたのだ。
そう、嫌いと。
聞こえてしまったのか彼は振り返って驚いた顔をした。
もちろん一緒にいたリシドも同じだったがぽかんとした彼とは違って焦ったような表情を浮かべていたような気がする。
それからというもの私達の仲は急に接近した。
同い年だからか意外と気が合うし歳を重ねるたびにお互い惹かれていった。
10の時に儀式を受けて、マリクの父が死んで。
彼は一族を捨て、自ら王に復讐することを誓った。
そうなると必然的に私の前から姿を消した。
彼はどこで何をしているのだろうか。
リシドから手紙が来なくなった今では知りようがない。
あれから何年も立った。
イシズさんの紹介やらなんやらで何とかホテル暮らしていける稼ぎをしている。
もちろんイシズさんとは割り勘というか彼女がほとんど出してくれているのだが。
そんな彼女もここ数日帰ってこないし。
そのとき、丁度チャイムが鳴った。
「おかえりなさい!イシズさ――・・・」
扉を開けるとイシズさん、だと思っていたのにそこにはマリクがいた。
驚いた。
私と対して身長も変わらなかった彼がこんなにも大きく成長しているなんて思いもしなかったから。
「マリク、」
「姉さんからがここにいるって聞いてきたんだ」
マリクは困ったように頭を掻いた。
あまりに突然の訪問に私も驚いたが玄関先で話すのもなんなので彼を部屋へと進めた。
ソファアに座らすと無言の間々、時間が過ぎた。
あまりの無言に堪えられなくなったので飲み物でも入れてこようと席を立った私をマリクは手で制した。
口を小さく開いたのでそのまま聞いてくれという意味だと分かったので腰を下ろした。
「闇と僕との決着が付いたんだ」
ぽつり、とマリクが言葉をつむいだ。
闇の人格とかそういうもののことは一族で残されたイシズから聞かされまめに届いていたリシドからの手紙で知っていたが。
「もちろん、王ともね」
困ったように彼は眉を顰めた。
何を困ることがあるのだろうか。
そういう表情をされるとこちらも困ってしまう。
「に伝えたいことがあって・・・。
ううん、伝えなくちゃいけないことがあったんだ」
「私に?」
「うん、ずっと決めてた。
一族を捨てた日から目的を成し遂げたら伝えようと思って」
その、と言葉を詰まらせるものの私には彼の言いたい事が分かった。
うん、と頷いてやりると彼は決心したように顔を上げて口を開いた。
「のことが好きだ」
いつかの囁きは嘘になって
うん、知ってる